– Papers –

 

これまでに執筆した論文や記事のうち,オンライン上で読めるものの一部を紹介します。

 

様式的規範に束縛されない集団即興演奏における 演奏者の習熟過程 ―サウンドペインティング実践者に対するインタビューと SCATによるテキスト分析を通して―

『JASMIMジャーナル』Vol.9,日本音楽即興学会,2024

本研究は,指揮付き集団即興演奏であるサウンドペインティングの実践者に対するインタビュー調査とテキストデータの分析を通して,様式的規範に束縛されない即興演奏において演奏者がどのように実践に習熟していくのか明らかにしようとするものである.サウンドペインティングとはサウンドペインターと呼ばれる指揮者兼作曲家がハンドサインを用いて指示を出し,その指示を受けて演奏者が即興演奏する集団即興演奏の技法である.本研究では,音楽大学の授業の中で実践されたサウンドペインティングの実践を4ヶ月にわたって参与観察し,13 名の演奏者に対して半構造化グループ面接を実施した上で得られたテキストデータをSCAT で分析した.その結果,演奏者は「記憶・反応の難しさ」 ,「即興的創作の難しさ」 ,「自己開示の難しさ」に直面していたこと,そしてサウンドペインティングにはそれらの克服を支援するような機能が内在していたことが明らかになった.教育現場等において集団即興演奏をファシリテートする際には,演奏者がどの「難しさ」に直面しているのか冷静に判断した上で,適切な支援をする必要があることが示唆された.

https://jasmim.net/wp-content/uploads/JASMIM-JOURNAL_vol9_all.pdf

 

子どもの主体的な音表現を支えるための体験的な学習 : 保育者養成課程の学生を対象とした混合研究法を用いて

『音楽教育学』51巻2号,日本音楽教育学会,2022

本研究は, 子どもの目線に立った体験的な学習が, 子どもの主体的な音表現を促すための保育技術にどのように影響するのかを明らかにすることを目的とする。4年制の保育者養成課程に在籍する大学生168名を対象に, 子どもの立場で表現活動を実践させた上で, 5件法と自由記述による質問紙調査を実施した。表現活動は, グループに分かれて, 終始擬音語で物語が進む絵本の抜粋を解釈し, 楽器で表現するものである。各調査の結果, 学習者が, 子どもの立場で実践を行う有効性を「イメージの具体化と方略の発見」「素材に対する柔軟な視点の獲得」「支援の技術の伸長」の3点に見出すことができた。ただし, 保育技術を獲得するためには, 表現活動において, 学習者が十分に熟考し, 表現に納得できるだけの協働的な営みを実現させなければならないことも, 量的, 質的分析の結果の比較検討を通して明らかになった(共同執筆者:甲斐 万里子,藤尾 かの子,五十嵐 睦美,髙橋 潤子,長谷川 諒)。

https://jasmim.net/wp-content/uploads/JASMIM-JOURNAL_vol9_all.pdf

 

若手研究者が考える音楽教育学の今後−音楽教育学の学際性と専門性−

『音楽教育学』46巻2号,日本音楽教育学会,2016

共同執筆:長谷川諒,木下和彦,前田一明,今田匡彦

https://doi.org/10.20614/jjomer.46.2_65

 

ベネット・リーマーの一般音楽カリキュラム—その史的意義と今日的意義

『日本教科教育学会誌』38巻2号,日本教科教育学会,2015

本稿は,美的教育思想の体系的論述で知られるベネット・リーマーが1967年に作成した,一般音楽のためのカリキュラムである Development and Trial in a Junior and Senior High School of a Two-year Curriculum in General Music に着目し,そのカリキュラムの構造的特質に言及するものである。本カリキュラムは,必ずしも音楽を専門的に学んでいない生徒の「美的感受性」を涵養することを目的に,リスニングに特化したシステムを採用している。様々な音楽的アイディアを体感するための歌唱行為,創作行為は行われ得るが,それらはあくまでリスニングの補助として存在しているのである。リーマーが,音楽作品の構造的特徴を分析的に聴き取る能力を徹底して育もうとしていることがわかるだろう。そして,このようなリスニングへの固執は,音楽の構造が有する緊張感や安堵感,焦燥感などが,人間感情のそれと同様の性質を有するがために音楽を学ぶべきであるとするリーマーの美学に帰結する。本カリキュラムは,一貫した美学的論拠が通底させている点で,史的に特筆されるものであった。

https://doi.org/10.18993/jcrdajp.38.2_57

 

The Contemporary Music Projectの収束期における活動の特質

『音楽教育学』43巻1号,日本音楽教育学会,2013

本研究は, 1960年以降の米国音楽科教育改革に重要な影響力をもったThe Contemporary Music Projectの諸活動の中でも, 1969年以降の収束期の活動に着目し, その活動の実際を明らかにするものである。収束期の活動は, ①演奏家や作曲家といった音楽の専門家をコミュニティーに配置する「Professionals in Residence」, ②Comprehensive Musicianshipの指導方法を音楽教育者に開発させる「Comprehensive Musicianshipの指導」, そして, ③Comprehensive Musicianshipに関する著書の出版やセミナー, ワークショップの開催といった「補完的な活動」, の3種目で構成される。③はComprehensive Musicianshipに関する著書出版等の雑多な活動であり, それまでの活動の成果を披歴するものであるが, 各音楽家にかなりの裁量権を与えた①や, 「指導法の開発」という目的を超えた活動を許容した②は, 収束期におけるThe Contemporary Music Projectの活動をさらに多様化させるものであった。特に②において, それまでになかった多文化教育的視点が盛り込まれた点, そして, 多文化理解という目的を掲げながらも指導の具体としては音楽構造の理解が強調されていた点は特筆すべきである。収束期の活動は, それまでの成果を流布する側面と, 各活動主体に判断を委ねつつ発展的な展開を許容する側面をともに併せ持っていたと言える。

https://doi.org/10.20614/jjomer.43.1_13

 

MMCPのカリキュラムにおける概念理解とテクニック習得との相関-Electronic Keyboard Laboratoryに着目して-

『日本教科教育学会誌』36巻3号,日本教科教育学会,2013

本稿は,1960年代のアメリカ音楽教育に重要な影響を与えたManhattanville Music CurriculumProgram が構築したカリキュラムの1つであるElectronic Keyboard Laboratory に着目するものである。EKL は,電子キーボードを用いた即興演奏を主たる学習活動として設定しつつ,MMCP によるその他のカリキュラムでは実現し得なかった,概念理解と演奏技術の相関的な育成システムを体現したものである。このカリキュラムの具体的な特徴は,① encounter と呼ばれる単元の中で,生徒の自発的な探究(即興)活動が主たる学習活動とされている点,②Developmental Phase of Music Education と呼ばれる即興演奏の発達段階論に依拠することで,様々な音を物理実験的に奏する音響的な「探究」活動から,より計画的で作曲的に音楽を生み出す音楽的な「即興」へとつながる連続性を想定している点,③概念の理解度の発達と演奏技術の熟達を,様々な音が有する物理的な性質に着目することで関連付けながら育成しようとしている点,に見ることができた。

https://doi.org/10.18993/jcrdajp.36.3_71